#2 ウェイトトトレーニングは追い込むほど効果が出るのか

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スポーツやトレーニングのパフォーマンスを上げるためにどうすべきか、今よりも高いレベルに行くにはどうすべきか。本シリーズではスポーツやトレーニングにおいて、理解を深めパフォーマンスの向上に貢献するであろう海外研究をかみ砕いて紹介していく。


筋肉が重りを動かせなくなるまで追い込み続ける、辛くハードなウェイトトレーニング。辛ければ辛いほど、得られるものも大きいと感じて毎回のセットで限界まで追い込むことも珍しくないだろう。しかし、限界まで追い込むことが必ずしも効果に比例しない可能性があるとなればどうだろうか。

速さを基準にしたトレーニング、VBT(Velocity Based Training/ベロシティ ベースド トレーニング)

VBTとは、設定した重量において全力でバーベルを持ち上げた際の速度を基準にしたトレーニングのことだ。通常、ウェイトトレーニングは重量に対して回数を設定することが一般的だが、VBTでは重量に対して速度を目安として設定する。セットを続けることで疲労と共に速度が低下してくるため、元の速度に対して遅くなったパーセンテージで中止を決める。

さらに、爆発的に全力でバーベルを挙上することで白筋(速筋)線維を優先的に動員しやすくなるため、特に瞬発的なパフォーマンスや筋肥大に有効とされている。

VBTを用いた一例として、70~85RMの重量に設定したバーベルスクワットにおいて、最大速度からそれぞれ0%、10%、20%、40%下回った場合にその時点でセットを中止した研究(※1)によると、20%、40%の速度低下でセットを中止した場合にはどちらも筋肥大は同様に起きたが、40%の方は素早い力の出力が低下したという報告がある。

また、速度低下を10%、30%、45%のグループに分けた研究(※2)によれば、いずれも筋力と筋持久力が増加し、10%のグループは他のグループよりもスプリントパフォーマンスが向上する結果となった。

さらに、筋の発達や修復には血中のホルモンの働きが重要な要因になるが、VBTトレーニングにおいては中止した速度に関わらず、いずれも安静時のホルモン濃度には有意な変化が見られなかったとする研究もある。(※3)

これらのことから、いずれもセット内の速度低下が10%程度であれば、筋肥大に加えてジャンプやスプリントなどの瞬発的なパフォーマンスの向上ができることが示唆されている。すなわち速度を重視したトレーニングは、ただ限界まで延々と追い込むよりも効率的にパフォーマンスを向上させることができる可能性がある。

まとめ:疲労感を得るだけがトレーニングではない

VBTにより、トレーニングにかける時間の短縮や「毎回限界まで追い込まなければならない」という精神的負荷の大幅な軽減、不必要な身体的ストレスの軽減にもつながると考えられる。
どんな分野でも、物事に全力で取り組むことは非常に素晴らしい。しかし、闇雲に動き続けるだけではなく常に目的を見据え、効率的に事を進めていくという視点も忘れてはならない。


※1:Velocity Loss as a Critical Variable Determining the Adaptations to Strength Training
Fernando Pareja-Blanco, Julian Alcazar, Juan Sánchez-Valdepeñas 1, Pedro J Cornejo-Daza 1, Francisco Piqueras-Sanchiz 1, Raúl Mora-Vela 1, Miguel Sánchez-Moreno 2, Beatriz Bachero-Mena 2, Manuel Ortega-Becerra, Luis M Alegre
PMID: 32049887 DOI: 10.1249/MSS.0000000000002295


※2:Effect of velocity loss during squat training on neuromuscular performance
David Rodríguez-Rosell 1 2, Juan Manuel Yáñez-García 1 2, Ricardo Mora-Custodio 1 2, Luis Sánchez-Medina 3, Juan Ribas-Serna 4, Juan José González-Badillo 1
PMID: 33829679 DOI: 10.1111/sms.13967


※3:Velocity-based resistance training: impact of velocity loss in the set on neuromuscular performance and hormonal response
David Rodríguez-Rosell 1 2, Juan Manuel Yáñez-García 1 2, Ricardo Mora-Custodio 1 2, Fernando Pareja-Blanco 1 2, Antonio G Ravelo-García 3, Juan Ribas-Serna 4, Juan José González-Badillo 1
PMID: 32017598 DOI: 10.1139/apnm-2019-0829