クイックリフト編

クイックリフト

クリーンななめ

クイックリフト_クリーンななめ

スナッチななめ

クイックリフト_スナッチななめ

本稿ではクイックリフトを行う上で、安全かつ効果的な方法と各局面での注意点をご紹介致します。

クイックリフトは一見すると何を目的としたトレーニングなのかわかりにくい種目ですが、特に股関節を主とした「瞬間的で速く高い力発揮」能力を向上させる事に適した種目です。

途中まではデッドリフトと同様のフォームを用い、負荷がかかった状態からの素早い股関節の伸展を行うことで下半身から上半身への力の伝達効率を向上させることができます。

ウェイトトレーニングの種目の中では難易度が高く、クイックリフトの導入の前にはまずデッドリフトの動作が習得できていることが必須となります。

「重いものを速く動かす」ということを安全に行うためには各局面の適切な技術の習得が欠かせません。見た目以上に高いバランス能力やコントロールが必要になりますので特性や注意点を理解した上で種目を行っていきましょう。

まず最初に① 筋力×速さ=パワー

クリーンよこ

クイックリフト_クリーンよこ

スクワットやデッドリフトなどに代表される基本的なウェイトトレーニングは高い筋力を発揮して筋力を向上させることに適しています。
しかしそれらは重い負荷をかけることができる一方で、扱う重量が重くなるほどバーの挙上速度は遅くなってきます。

力発揮は「筋力×速さ=パワー」という公式で表され、強い「筋力」を発揮できても「速さ」が低ければ「パワー」は高くなりにくいのです。
特に、多くのスポーツで求められる「瞬間的で速く高い力発揮」とは異なってしまいます。
この点に関して下記を例に考えてみましょう。

100㎏のバーを5秒かけて持ち上げる人(Aさん)と、
100㎏のバーを1秒かけて持ち上げる人(Bさん)では

Bさんのほうが同じ重量を速く動かすことができるためパワー発揮が高いということになり、こうした「瞬間的で速く高い力発揮」能力はあらゆる競技で必須になります。

まず最初に② 力‐速度関係

スナッチよこ

クイックリフト_スナッチよこ

また、「力‐速度関係」も重要な観点になります。
力と速度には相関性があり、高い筋力を出すためには速度が落ち、速く動かすのであれば発揮できる筋力は低くなるという法則です。

これはピンポン球とボウリングの球をそれぞれ全力で投げることをイメージするとわかりやすいかと思います。
ピンポン球では速度は出せますが高い筋力は出せません。
対して、ボウリング球では高い筋力は出せますが速度は出せません。

クイックリフトはスクワットやデッドリフト等で養った基礎的な筋力に「速さ」を加えてスポーツ動作に転化や反映をさせるための種目で、特にジャンプやダッシュのように地面を瞬間的に強く速く蹴る動きにおいて効率的に応用ができます。

なお、どのトレーニングが一番良いかということが大事なのではありません。
どんなトレーニングでも主な効果は限られているため、それらを相互で補填できる種目を目的に応じて適切に実施していくことが大事なのです。

クイックリフトの各動作

一瞬の動作で行われるクイックリフトの中には多くのポイントがありますので、スナッチを例に取り下記に順を追って局面ごとに記載致します。
以下のポイントはクリーンもスナッチもその他のクイックリフト種目も共通する非常に重要な部分です。

ファーストプル

クイックリフト_ファーストプル

ダブルニーベンド

クイックリフト_ダブルニーベンド

スクープ

クイックリフト_スクープ

セカンドプル

クイックリフト_セカンドプル

キャッチ

クイックリフト_キャッチ

ファーストプル

ファーストプル

クイックリフト_ファーストプル
デッドリフトの要領で床から膝まで、バーを体に近い位置を添わせて持ち上げます。

また「ハングポジション」と呼ばれる膝上からスタートするパターンもあります。床から引き上げた際の助走、すなわち慣性が働きにくいため高重量を扱うことには向いていませんが、各局面で分けて練習する際には非常に有用な方法です。

ダブルニーベンド、スクープ

ダブルニーベンド

クイックリフト_ダブルニーベンド

スクープ

クイックリフト_スクープ

バーを跳ね上げる直前まで助走をつける局面となります。

膝上から大腿部にかけてバーが移動し、前傾していた上半身が直立していくと同時に自然に膝が前に出る局面です。この動作をダブルニーベンドと呼び、バーが腿から離れないようにしながら股関節へ引き寄せる動作をスクープと呼びます。

スクープが甘いことでセカンドプルでバーが股関節まで引き付けられずに腿の途中で離れてしまうと、①股関節、②膝関節、③足関節 の三点が完全に伸びず十分な力発揮ができずに終わってしまいます。
効果的に刺激を与えるためにもスクープを適切に行い、股関節までしっかりとバーを引き付けるように練習しましょう。

セカンドプル

セカンドプル

クイックリフト_セカンドプル
バーを股関節にスクープで引きつけた後、股関節の瞬間的な伸展でバーを垂直方向へ跳ね上げます。腕の力で引き上げるのではなく、あくまで股関節伸展動作の力を伝えることが重要です。

バーはなるべく真上に跳ね上げ、体に近い位置を通るようにします。体からバーが離れてしまうと本来発揮したい垂直方向の力と異なってしまいます。

この時にしっかりと①股関節、②膝関節、③足関節 の三点が同時に完全に伸びている状態を「三関節同時伸展(トリプルエクステンション)」と呼び、クイックリフト特有の非常に重要な動作になります。

先述のように、スクープが甘い事で三関節の同時伸展が不十分だと思うような成果を得られないことがあります。そのためにもフォームをしっかりと確認して適切な動作を習得して頂ければと思います。
クイックリフト_セカンドプル2
クイックリフト_セカンドプル3

なお一瞬で終わってしまう動作を修正することは非常に難しいため、フォームの修正や確認には横から動画を撮影して確認すると非常にわかりやすくなります。

キャッチ

キャッチ

クイックリフト_キャッチ
肘を完全に伸ばし、腕を下から突き上げるようにバーをキャッチして支えます。
セカンドプルでバーを真上ではなく前上方へと大きな半円を描くように振り回してしまうとキャッチの際に体が大きく後方へ揺らされ非常に危険です。

そのため股関節までスクープをしっかりと行い、セカンドプルの局面で垂直に跳ね上げる事が重要です。

練習としてのハイプル

ハイプルななめ

クイックリフト_ハイプルななめ

ハイプルよこ

クイックリフト_ハイプルよこ
クイックリフトの共通動作となる、跳ね上げて高く引くまでの動作が「ハイプル」です。
クリーンやスナッチからキャッチの動作を省いたもので、ウォーミングアップやフォームづくり、感覚の習得の練習として非常に有効な種目です。

クリーン

クリーンななめ

クイックリフト_クリーンななめ

クリーンよこ

クイックリフト_クリーンよこ

クリーンは肩幅でバーを握り、鎖骨付近で手首を返してキャッチを行います。
バーを一気に頭上まで持ち上げるスナッチに比べて移動距離が小さくなりますが、その分重量を扱うことに向いています。

ハングクリーン プレート

クイックリフト_ハングクリーン プレート

床引きクリーン プレート

クイックリフト_床引きクリーン プレート

首元の鎖骨付近で素早くキャッチを行うことは感覚を掴んで慣れるまで少々難しく、キャッチを十分に練習しておかないと顎や鎖骨にバーが当たってしまうことがあり大変危険です。
先々重量が扱えるようになることも考えて、最初は十分にコントロールが可能なバーのみや軽い状態でゆっくりと練習する必要があります。

スナッチ

スナッチななめ

クイックリフト_スナッチななめ

スナッチよこ

クイックリフト_スナッチよこ

スナッチは肩幅よりもかなり広くバーを握り、一気に頭上まで引き上げキャッチします。クリーンよりも移動距離が大きくなる一方で、扱える重量は下がる傾向にあります。

ハングスナッチ プレート

クイックリフト_ハングスナッチ プレート

床引きスナッチ プレート

クイックリフト_床引きスナッチ プレート

キャッチは頭上で行うため非常に高いバランスとコントロールが必要となります。
セカンドプルでバーを跳ね上げたバーが体から離れて大きな弧を描いてしまうと、キャッチ時にしっかりと受け止めることができずに後方へ倒れてしまいます。

キャッチを安定させるためにも、バーを限りなく垂直に近い方向へ跳ね上げることが重要です。なお、バーの握りが狭いと頭上でキャッチしにくくなるため、コントロールできる程度の速さで繰り返し練習し、やりやすい幅を見つけておくことも大事です。

まとめ

クイックリフトはウェイトリフティング競技の動作に限りなく近い動作ですが、ウェイトリフティング競技は持ち上げたバーベルの重量で順位を決め、跳ね上げたバーの下に素早く潜り込みバーのキャッチをなるべく低い位置で行えたほうが有利という点で目的が異なっています。

本稿のように、スポーツ競技に活かす目的でのクイックリフトは重量第一ではなく、「瞬間的で速く高い力発揮」をすることが本来の狙いですので、極端に低い位置でバーベルをキャッチする練習をする優先度は決して高くありません。

闇雲に重量だけを追ってしまうと本来の目的から反れてしまうことがあります。
動作が似ていても「重量を競う」事と「瞬間的で速く高い力発揮能力」を高める事は大きく異なりますので、しっかりと目的を持って練習することが重要です。

もちろん、基礎的なトレーニングやクイックリフトを積み重ねていった結果として適切に扱える重量が増えることは順調な進歩であり非常に良いことに思います。

トレーニングのレベルが上がるほど多くの情報からの取捨選択を迫られることになります。常に「何のために、何に活かす目的で行うのか」を見失わず効果的に取り組んで頂ければと思います。



”クイックリフト”の重要性を描いた簡易物語がございます。
こちら↓↓↓をご覧ください。
タイトル「単位」


関口 貴久
コラム記事著者
関口 貴久
トレーナー、柔道整復師。
競技パフォーマンス向上のためのトレーニングや傷害予防、またそれらに関する記事の執筆を専門とする。
整形外科、医系学校教員助手、スポーツ系専門学校講師等を経験。日本国際テコンドー協会にて埼玉近郊の大会医療を担当。