スクワット編

スクワット

本稿ではスクワットを行う上で、安全かつ効果的な方法と各局面での注意点をご紹介致します。
バーベルを担いだ状態でのスクワットは下半身だけでなく全身の筋力を使うためキングオブエクササイズとも呼ばれます。
スクワットに限らず全てのトレーニングに共通することですが、使い方次第で毒にも薬にもなってしまいますので要点や注意点を理解した上で導入を進めていきましょう。
スクワット_バーベルスクワット

バーを担ぐ位置

スクワット_担ぎ
スクワットでバーを担ぐ際、高さや位置により「ハイバー」と「ローバー」に大別されます。


ハイバーは首に近い位置にバーを担ぐ方法です。
ハイバーは上半身が垂直に起こしやすいためテコによる腰への負荷が減少しますが、膝が出やすくなります。
そのため、大腿前面にある大腿四頭筋群を鍛えやすい種目です。

また、肩や肩甲骨周りの可動域が狭い状態だとハイバーの状態のほうが楽に担げる傾向にありますが、首や頸椎に怪我の既往や痛みがある場合には注意が必要です。

ローバーは肩甲骨に乗せるような低い位置にバーを担ぐ方法です。
ローバーは上半身が前傾させやすく、テコによる腰の負担が増加しますが膝は出にくくなります。
そのため、大腿部に加えて腰部や臀部など、広い範囲で効率的に刺激を入れることができます。
しかし肩や肩甲骨周りの可動域が狭い状態だとバーが肩甲骨に乗る状態を作ることが難しく、痛みが出たり怪我をしないよう徐々に慣れていく必要があります。

なお、バーに親指を巻きつける通常の握り方ではなく、上記の画像のようにバーに親指を巻きつけない「サムレス」と呼ばれる握り方をすると持ちやすくなる場合があります。

バーキャッチの高さ

良い例

スクワット_ラックから持ち上げOK
バーを置く高さを調節するバーキャッチは、高すぎても低すぎてもやりにくくなり非効率となってしまいます。
背伸びをしなければバーがラックから外せないくらいでは高すぎてしまい、必要以上に深くしゃがんだ状態からバーを外すほどでは低すぎます。
上記の画像のように軽く膝が曲がったスクワットの体勢を作っておき、最小限の力で効率よく垂直に持ち上げられることが重要です。

悪い例

スクワット_ラックから持ち上げNG
また、バーキャッチの高さが合っていても、上記のように持ち上げる動作で背中や腰が丸まってしまうと大変危険です。スクワットはバーを担いだ後の上下運動を指すだけでなく、最初にバーを持ち上げる動作から始まっているものとして捉えることを推奨致します。

戻すとき危ない例

スクワット_戻すとき危ない
持ち上げるときだけでなく戻す際も同様に、背中や腰を丸めてラックに戻す動作が習慣化されてしまうと、重篤な怪我を負う危険性があります。
バーをラックに戻すときは持ち上げるときの動きと真逆になるように、バーを担いだまま前方へ移動し、バーをラックに押し当てるようにして垂直に下ろすことでラックに戻す際のリスクを大幅に軽減できます。

上記の画像のように遠い位置から上体を丸めたり前傾させて戻すことは大変危険です。いかなる極度の疲労状態であっても安全に戻すまでがトレーニングです。

セーフティの使用

悪い例

スクワット_セーフティの使用NG
重量を乗せたスクワットにおいて、しゃがんだはいいもののそこから立ち上がれずバーに潰されてしまう事故が多く発生しています。自身でコントロールできなくなった重量物は大変危険です。バーを挙上できなくなってしまったときに怪我を起こさず未然に防ぐためにセーフティバーの使用は必須となります。

良い例

スクワット_セーフティの使用OK
セーフィティバ―の位置が高すぎるとスクワットの可動域を狭めてしまい、低すぎると意味をなさない場合があります。プレートを付ける前にバーだけの状態でしゃがんでみて、およその位置を設定しておくことをお勧めします。

スクワットの動作とポイント

ただしゃがむだけに思えるスクワットも実は非常に奥が深く、多くの重要なポイントが隠されています。
バーの軌道、体幹部の腹圧による安定、骨盤の傾き、膝の揺れ、足の裏のアーチなど、順にご紹介していきます。

バーの軌道

バー垂直


スクワット_バー垂直

スクワットにおいて、バーは極力垂直な軌道で上下することが理想です。

バー垂直ではない


スクワット_バー垂直ではない

バーが前後に揺れてしまうと不安定になるだけでなく力の伝達効率が悪くなり、精細なコントロールを欠くことで怪我のリスクも増えてしまいます。
また、スクワットやデッドリフト(別記事にて解説)においては軽すぎる重量で行うよりも、コントロールしきれる範囲である程度の重量を乗せたほうが効率的かつ適切なフォームを習得しやすい傾向にあります。

少々体育会系な根性論にも思えますがこれにはもちろん理由があり、バーだけの軽い状態だと多少フォームが崩れていても扱えてしまうのです。そのため、効率的に無駄なく垂直に力が発揮できているかがわかりにくいのです。

ある程度のフォームができてからは、安全にコントロールしきれる重量を乗せた上で安定して効率良く力が発揮できるフォームを探しつつ負荷や強度を段階的に高くしていくことを推奨します。

体幹部の腹圧による安定

スクワットは全身運動になりますが、上半身と下半身をつなぐものは背骨しかなく、それを強力に腹筋群がサポートすることで体幹部分の安定性を高めています。この腹部の内圧を高める働きを「腹圧」と呼びます。

しっかりと腹筋群に力を入れ、腹圧を高めて体幹部が安定した状態でスクワットを行うことが非常に重要で、十分に腹圧が高められていない、コントロールできていない状態でバーベルを使ったスクワットを進めていくことは特に腰部に対して高いリスクが伴います。

腹筋群が腰部を固定して安定させる機能が働かないことで安定した軌道やフォームを確保することができずに不安定になり、不必要な腰椎の動揺が起きたり、背骨や腰が丸まりやすくなり怪我のリスクが増加してしまいます。
また、腹圧の弱さと腰痛には高い相関性がある旨の研究報告が国内外問わず多く存在します。

腹圧のコントロールに関しては腹筋群の機能回復やの再教育を目的としてたドローインやプランクなどの俗にいう「体幹種目」の導入が効率的です。

なお腹筋群に問題がなく腹圧をしっかりとかけられる人の場合には、先述の「体幹種目」よりもスクワットを行ったほうが結果として体幹部を含む全身の強化につながりますので、状態に合わせて目的と優先順位をつけて取り組んで頂ければと思います。

骨盤の傾き「バットウインク」

上記に述べました腰の怪我に関して、欠かすことのできない重要な注意点として「バットウインク」があります。
バットウインクはしゃがんだ時に骨盤が後ろに傾く動きで、上背部はまっすぐだったとしても下背部が丸くなることで腰部の怪我のリスクが格段に増加してしまいます。

バットウインクしていない(正常)

スクワット_バットウインクしていない

バットウインクと背中の丸まり

スクワット_バットウインク
バットウインクが起きる要因として、股関節や大腿部裏側の筋群の柔軟性不足、腹圧の抜け、腰背部の筋力不足等などがあります。
一回のストレスだけでなく積み重なるストレスの影響を考えると、これが起きない範囲に留めてスクワットを行い、バットウインクが起きないフォームの習得や体の状態を段階的に整えていくことをお勧めします。
なお、鏡などで横からチェックをすると非常にわかりやすいです。

膝の揺れ

膝はドアの蝶番のように決められた軌道と範囲で動き、膝関節は屈伸時にほとんど捻れの動きは出ません。
そのため、屈伸時に極端に膝が左右にぶれてしまうことは関節に不必要なストレスをかけることになり、怪我にもつながりやすくなります。

膝が揺れていない

スクワット_正面膝OK

膝が揺れている

スクワット_正面膝NG
目安として大腿部や膝が足の人差し指や中指の方向を向いたままスクワットの動作ができると膝の横揺れは防ぎやすくなりますが、骨格によってはどうしても上記の方向に向けることが難しい場合もありますので、絶対に必ずしも万人共通ということではなくあくまで膝の不必要なストレスや怪我のリスクを減らす目安の一つとして捉えて頂ければと思います。

また、ジャンプからの着地においては瞬間的に体重の数倍力がかかるため、膝の揺れが起きることで膝周りへのストレスが飛躍的に増加してしまいます。
特に片足での着地の場合には片足に荷重が集中することやバランスの不安定感もあり一層リスクが増します。
それらの怪我の予防を目的とした場合の最初の段階である基本的な着地動作を習得する際にもスクワットが貢献してくれます。それと並行して、しっかりと安全に着地を行う技術を段階的に習得していくことを推奨いたします。

足の裏のアーチ

上記の膝がブレてしまう現象は膝周りだけの要因に限らず、股関節周りの筋肉や骨格、足の「アーチ」と呼ばれる土踏まずや足の裏の筋肉の状態が大きく影響してきます。

アーチ低下

スクワット_アーチ低下
この画像では、しゃがむ動作に伴って膝の不安定な揺れやつま先との角度が変わってきてしまっています。
「土踏まず」は文字通り土を踏まない部分にあたります。
偏平足に代表されるように本来は土を踏まない部分が土を踏み、アーチが下がってしまっている状態だと必然的に膝が内側に入り、つま先の方向と異なることで捻れのストレスが起きやすくなってしまいます。

もし両足の状態で起きてしまっているのであれば、ほとんどの場合で片足の動作でもより大きくブレが生じることが考えられます。スクワットのフォームを習得することと並行して怪我のリスクも限りなく低減させておくことが重要です。

まとめ

単純に見えても細かい注意点の多いスクワットですが、ある程度の重量の乗ったスクワットを行うことで下半身の筋力向上だけでなく胴体部分の筋群を動員することで体幹部の安定性向上にもつながります。

腰回りに特別な怪我や機能低下がない限り、俗にいう「体幹トレーニング」を行うよりはバーベルスクワットを適切に行ったほうが成果としても時間効率としても有効です。

ボディメイクにおいても競技パフォーマンスに活かす目的でもスクワットの実施は非常に重要な要因となります。
注意点やポイントを押さえた上で、安全かつ効果的に成果を出して頂ければと思います。


関口 貴久
コラム記事著者
関口 貴久
トレーナー、柔道整復師。
競技パフォーマンス向上のためのトレーニングや傷害予防、またそれらに関する記事の執筆を専門とする。
整形外科、医系学校教員助手、スポーツ系専門学校講師等を経験。日本国際テコンドー協会にて埼玉近郊の大会医療を担当。