医療栄養学科 スポーツ栄養コラム 第17回

免疫力を高める栄養素~immunonutrition~のススメ

こんにちは。医療栄養学科の伊東です。今回は感染症対策としての栄養についてお話しします。

皆さんもご存知の通り、新型コロナウイルスが関連した呼吸器疾患を主とする感染症の罹患者が急増しています。(日本では3月2日12:00現在、232例の患者が確認されています。)これを受け、日本政府は新型コロナウイルス感染症感染防止策として、これまでの水際対策に加えて、小規模の患者クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが感染の流行を早期に終息させるために極めて重要であるとしており、大規模な感染拡大が認められていないこの時期だからこそ、「みんなそれぞれができる徹底した対策」を実施していく必要があると通達しています。
首相官邸HP:一人ひとりができる新型コロナウイルス感染症対策

運動と免疫力~アスリートの免疫能は?~

連日のトレーニングで培われたアスリートの屈強な身体は、一般人と比べて免疫力が強くできている、と思われがちですが、実はどうでしょう? そこには、運動強度の【過度】と【適度】という言葉が重要になってきます。

元来、適度なスポーツは免疫力を高める効果があることが報告されています。対照群と比較してウォーキングを続けた群は、血中の免疫グロブリンが増加し、体内の免疫システムがプラスに作用したことで上気道感染症(風邪)の罹患率が有意に低くなったこと、また、罹患時も症状のある期間が有意に短くなったことが臨床研究で報告されています(Nieman DC and Pedersen: Exercise and immune function. Sports Medicine; 27: 73-80,1999.)。

しかし、強度が高い運動は、免疫を高める体内物質(サイトカイン)の産生を抑えてしまい、逆に免疫を下げる方に働く体内物質(サイトカイン)の分泌を高め、その結果、全身の免疫力が低下し感染症にかかり易い状態となるといわれております(Gleeson,M.,et aL  The anti-inflammatory effects of exercise: mechanisms and implications for the prevention and treatment of disease,Nat. Rev. Immunol.11: 607-615, 2011.)。

つまり、高強度のトレーニングをしているハイレベルなアスリートであればあるほど、免疫力が低下傾向にあり、感染症リスクが高まっている状態が続いている可能性がある、ということです。
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免疫力を強化する栄養 Immunonutrition ~グルタミン・アルギニン~

主に外科手術患者やICU患者の臨床的転帰を改善する目的で免疫能を高める作用をもった栄養素を投与して患者の免疫系を強化しようとするimmunonutrition(免疫栄養)という栄養療法が行われています。この栄養療法に用いられる免疫系を賦活化する栄養素であるアルギニン、グルタミンを今日は紹介します。

グルタミン

グルタミンはアスリートやトレーニーにはよく知られており、骨格筋の遊離アミノ酸の約6割を占めるアミノ酸で骨格筋の形成に重要なアミノ酸の1つです。
グルタミンの特徴は、
●破壊された筋肉組織の修復のためのエネルギー源として使われる。
●筋グリコーゲンの回復を促進する。
●好中球やマクロファージ、リンパ球などの免疫細胞のエネルギーとして使われる。
といった働きがあります。

アルギニン

塩基性の高いアミノ酸で、生体内では肝臓での尿素回路の中間体として生合成され、特に、
●エネルギー代謝を活性化し、エネルギー産生を高める作用を持つ。●組織の修復に欠かせない物質であるポリアミンを合成し、傷の治りを早める。といった働きがあります。

感染症リスクを軽減するためだけではなく、強度の高いトレーニングを続けるためにも、リカバリーと免疫力を高める食事・栄養による“攻め”と“守り”の両面アプローチが重要です。今回紹介したグルタミンとアルギニンはサプリメントとして入手することもできますし、普段皆さんが使用しているプロテイン製品にアルギニンやグルタミンが配合されている商品もありますので栄養成分表示を見てみてください。
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ただし、アルギニンやグルタミンにだけ目を向けるのではなく、糖質やたんぱく質、ビタミンやミネラルなど食事の基本を疎かにしないことが最も重要なことです。

しっかり食事を摂ったうえで、足りないアミノ酸をサプリメントで補って、感染症予防対策をしましょう。

伊東 順太
今回の執筆者
伊東 順太 助教(病態解析学研究室)