医療栄養学科 スポーツ栄養コラム 第14回

赤ビーツを食べ過ぎると「胃がん」になる?

赤ビーツは野菜です。

赤ビーツに豊富に含まれる硝酸塩には、私達の健康の保持・増進に一役買っているという趣旨で話を進めてまいりました。しかし、取り過ぎると胃がんになるという話を耳にしたことはありますか?インターネット上の様々なニュースサイトやブログ等で注意喚起されている記事を目にしたことがあるかもしれません。

本当に、赤ビーツを食べると、胃がんになってしまうのでしょうか?

そもそも、硝酸塩と胃がんにはどんな関係があるのでしょうか。農林水産省のHPには、これらに関する情報が掲載されています。(1)こちらの情報によれば、硝酸塩が関係する疾患として、メトヘモグロビン血症と発がん性物質ニトロソアミンがあるようです。

メトヘモグロビン血症には、遺伝性と中毒性があります。中毒性なものとして、アミン類、ニトロ化合物、亜硝酸エステル類、サルファ剤(合成抗菌薬)などの影響により、ヘモグロビンに含まれる2価の鉄イオン(Fe2+)が酸化されて3価の鉄イオン(Fe3+)に変換されます。メトヘモグロビンは酸素と結合できず、酸素を運搬することができないため、結果的に、全身に酸素が十分に行き届かなくなり、チアノーゼを引き起こし酸素欠乏症へ進みます。

この症状がある方は、皮膚が血の気の引いた青白っぽい色になるのが特徴的です。海外において過去に生後3か月未満の乳児で発生した事例が知られています。この原因は、3か月未満の乳児は、胃酸の分泌が少なく、胃内のpHが高いため、胃内で硝酸塩から亜硝酸塩が生成され、これが血液中のヘモグロビンと結合して、メトヘモグロビン血症を引き起こすためであると言われています。日本では生後5~6か月頃から離乳を開始する場合には、胃酸の分泌も多くなっており、このような事例が生じるおそれは極めて少ないと考えられています。この他にも、国内では肥料により地下水中の硝酸塩濃度が高くなってしまい、その水を飲んでいたという報告もあるようです。
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一方、ニトロソアミンは、胃内において、酸性条件下で亜硝酸塩とアミンを含む化合物(タンパク質)が反応し、生成されます。このような状態が継続すると、発がん性物質が増加するかもと思う方がいらっしゃるかも知れません。しかし、人の体内でどの程度ニトロソアミンが生成され、それによって本当に胃がんになるのか、確固たる根拠が未だ報告されておりません。

日本の食品安全委員会の2012年の報告では、動物を用いた発がん性試験では、ラットへの肝発がん性や前胃の腫瘍が認められているが、両者とも再現性に乏しいこと等を理由として、評価の対象とすることは困難であるとしています。

欧州食品安全機関(EFSA)の2008年の報告では、硝酸塩濃度392mg/kgの野菜を毎日400g 食べた場合、食事からの硝酸塩の平均暴露量は157mg/日と推定され、ADI(体重60kgで222mg)の範囲内であるとしています。

※ADI: 一日摂取許容量(Acceptable Daily Intake)
食品に用いられたある特定の物質について、生涯にわたり毎日摂取し続けても影響が出ないと考えられる一日あたりの量を、体重1kgあたりで示した値。単位はmg/kg/day

厚生労働省や農林水産省では、健康の保持・増進のため、野菜を1日350g以上(そのうち、緑黄色野菜は120g以上)摂取することを推奨しています。また、厚生労働省の施策の1つである「健康日本21(第二次)」において、野菜摂取量の増加が挙げられています。平成29年国民栄養・健康調査の結果では、野菜摂取量は、平均288.2gであり、いずれの年齢層でも目標の350gには到達しておりません。現状を鑑みると、目標量の野菜を摂取しても、健康被害が出るレベルの硝酸塩を摂取することはなさそうです。むしろ、野菜を積極的に摂取して、健康の維持を図るべきでしょう。

ところで、ニトロソアミンを防ぐためには、還元物質であるアスコルビン酸(ビタミンC)を摂取することで、ニトロソアミンの生成を抑制することがわかっています。ちなみに、日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年(文部科学省)によれば、生のビーツ100g中にビタミンCは5mgしか含まれておらず、ビタミンC補給目的でビーツを食べることは、効率が非常に悪いです。そのため、ビタミンCを含む他の野菜や果物を食事に取り入れると良いでしょう。

以前のコラムでは、NOを産生するときにアスコルビン酸(ビタミンC)が必要であると書きましたが、覚えていますか?ビタミンC、とても大事です。
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赤ビーツは野菜です。(大事なことなので2回目)

日本以外では、日常的に摂取されている野菜です。
赤ビーツだけを大量に摂取するような極端な食生活を長期間行わない限り、胃がんになる危険性は少ないように考えられます。

普段の食生活に赤ビーツはいかがですか?
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参考文献
1.農林水産省HP「野菜等の硝酸塩に関する情報」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/index.html

関口 祐介
今回の執筆者
関口 祐介 助教(栄養教育学研究室)